「雨」 エツコ-spinningball- コヤス

 

乾いたあたたかな春の夜
静かな雨が降ってきて
光る雫が緑の葉をつたい
アスファルトに黒い水玉模様を作る時
懐かしい匂いに包まれる
それは
そう
今はもうないあの場所で
初めてあのひととキスをした
あの夜のことを思い出すから

「忘れ物がある」


駆け出して来たあのひとが
傘に隠れて私を抱きしめたとき
あのひとの肩ごしに見ていたの
青く繁った街路樹から
闇夜に立ちのぼる白い霧
音もなく降りそそぐ雨の下
木々が水を吸い込むように
私もあの人の心を吸い込んだ
そしたら小さな風が吹いて
私の心もゆらゆら揺れた

今はもうないあの場所と
今はもういないあの時のふたり

ただ立ちつくす夜の中
春の雨に濡れて光る若葉の匂いと
乾いたアスファルトを湿らす匂いが
手をつないで
懐かしい踊りを踊っている

私ひとりを置き去りに
静かな夜に漂う匂い

 

 

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