smoke hajimete エツコ-spinningball- コヤス

私はタバコを吸わない。
お酒も弱いので、ほとんど口にしないと言って良い。
こんな風に書くと、一体どんな堅物なのか?とおもわれそうだが、それにはちゃんとした理由がある。
タバコは、幼い頃小児喘息をわずらっていたせいもあるし、完治し、成人した今でもノドが弱いので、他人が出すケムリすら敬遠しているほどだ。
お酒については、味はむしろ好きな方なのだが、いかんせんアルコール自体、体がうまく受け付けてくれないので(すぐに眠くなり頭痛がしてしまう)飲みたくても飲めないのだ。一度、水で割った梅酒をウマイウマイと調子にのってグラス一杯飲み、腰が抜け天井がぐるぐるまわる、という体験をしてしまい、それに懲りたのだ。
だから、真夏に、大ジョッキでビールを「プハーッ!!」っと やってるのを見るのは本当にうらやましい。
現在は夫の晩酌の缶ビールを、チョイとひとくちいただくくらいで顔を赤らめている。まったく、大人の嗜み程度にもならないのだから情けない。
しかし、こんな私でありながら、タバコもお酒も、初体験は早かった。どちらも小学校低学年の時だから、不良にもホドがあるってもんだ。というより、ただの興味本位だっただのが… 。
 タバコ初体験は、小学校の2年生の時、仲の良かった同級生と近所の空き地で遊んでいた時の事だった。 ふと見ると、地面の上にまだ火をつけていないタバコが一本落ちていた。私はそれを拾い、友だちTちゃんに見せた。Tちゃんは、それをふざけて口にくわえたのだが、なんとなく、二人ともケムリを出してみたくなってしまった。大人に見られるとこっぴどく叱られるのは目に見えているので、誰もいそうにない神社の境内の裏で、隠れて火をつけようということになった。神社に行ってみると、一月の終わりという寒い時期だったせいか、予想どおり人影は無かった。Tちゃんがお父さんのマッチを家から失敬して来たので、ドキドキしながら早速試してみた。
まず、私がやってみたがなかなか火がつかず、Tちゃんが「やってみる」と言い、不格好にタバコをくわえて火をつけながらスゥッと吸い込んだ。父親のやり方をよく見ていたからか、Tちゃんは簡単に火をつけ、一人前に鼻からケムリを出して見せた。「今度は私の番。」といいつつ、恐る恐る吸い込んでみた。私は案の定、むせて咳き込んでしまったが、吸い込まず、「ふかす」というやり方で、なんとなく大人の雰囲気を楽しんだ。  二人でかわりばんこにしていると、あっという間に一本のタバコは終わってしまい、あっけなく「大人のイップクごっこ」は終わってしまった。その間、私達以外には誰も神社に来る人はおらず、この後も誰にも見つからないでいられそうだった。
Tちゃんは、
「案外たいした事無い」
  と言っていたが、私はなんだか、拾ったタバコだけでは満足できず、
「新品を買ってこよう」
  などと言ってしまった。また、都合良く
「お年玉の残りがあるから、それで買おう。」
 
と、Tちゃんも同意して、近所のタバコ屋にお使いのフリして買いに行こうなどと大胆な計画を立てた。そして、多分、タバコ屋のおじさんに銘柄を聞かれるから、その時はどう答えるのかということまで考え、当時、私の父親が吸っていた「チェリー」という名のタバコに決めた。
打ち合わせ通り、Tちゃんは、まんまとタバコを買うことができ、私達は新品のタバコの箱を持って再び神社に走った。「チェリー」という名だから、もしかして甘い味でもするのじゃないかと思ったのだが決してそんなことはなく、れっきとしたタバコなのだった。赤と白の箱の「チェリー」は、なんだかとても綺麗で開けるのがもったいなく思えた。しかし、ぎこちなく、ビリビリと無造作に紙を破って二本つまみ出し、一本ずつくわえ、よくあるドラマのワンシーンようにお互いにマッチを手で被って火をつけあった。まるで、”太陽に吠えろ!”のヤマさんがゴリさんにするように…だ。
しかし、どんなに格好付けようとも、やっぱり私はむせてしまい、ふかすことしかできなかった。どんなに頑張っても、やはり大人が吸うようには出来なかったのだった。
やがて辺りが薄暗くなり始め、残ったタバコは神社の石垣の隙間に隠し、いつかまたここで遊ぼうとTちゃんと約束した。
  そんな風に私のタバコ初体験は終わったのだが、その後何度か二人寄ってはタバコをふかし、そしていつの間にかどちらからともなく神社に行くのはやめになった。
それは多分、ある日の夕方タバコの存在を確かめに神社に行った時、掃除をしていた優しそうなオバさんが炊いていたたき火を、Tちゃんと一緒になってつつき、オバさんに
「火遊びするとオネショをするよ」cherry
  と言われてそのとおりになってしまったからだったような気がする。なんとなくやっぱり、「大人はなんでも知っている」と思ってしまったからだと思う。
きっと、タバコを吸ったりなんかして、神社の神様だって怒ってるに違い無い!と、いうような子供らしい結論に達したからだ。
聞くとTちゃんもその夜オネショをしてしまったという。タバコに火をつけるのだって、立派な火遊びだと思うのだが、一辺倒にいかないところまで子供らしい。
 何年か経って、夏祭りにその神社へ行った時、「チェリー」を隠した場所を覗いてみたが、何故か無くなってしまっていた。Tちゃんとは、「きっと神様が取り上げたんだ」というような結論に達したように記憶している。 それにしてもあの時のドキドキは、今でも何かの折にふざけてタバコに火をつける度、冬の風の冷たさや煙りの匂いと共に、必ず蘇る、幼すぎる初体験なのである。

 

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