『bitter,sweet samba』 エツコ-spinningball- コヤス

  私が中学生だった頃。
それはまさに80年代ど真ん中であった。
テレビではアイドル全盛の時代であり、新聞のテレビ欄には音楽番組のタイトルが踊っていた。
そして私はといえば、慌ただしく学習塾から戻るとそれらの番組にチャンネルを合わせ、お気に入りのアイドル達がたいして上手くも無い歌を(上手い人もいたが。)振り付きで披露するのに見とれていた。
学校では校則がやたら厳しく長髪禁止だったが、男子も女子もこぞって、髪型だけはアイドル達をマネていた。流行はいわゆる聖子ちゃんカットから、ショートボブや短かいテクノカットへと移行しており、かく言う私も襟足辺りをナナメに刈り上げたりしては色気づいていた。
「2組の○○ちゃんは、昨日、小泉今日子そっくりにしてきたよ」
などと噂になると、どれどれ?と、よその教室にまでわざわざ見にいったりしていた。
まったく、本当に子供っぽい子供時代だったのだなぁと今さらながら感心してしまう。
家に帰ると、私は高校受験を控えていることもあり、夕食後にゆっくりとテレビなど見ていると、親からの激しい口撃にあうので、お目当ての歌手の出番を見終わるとさっさと自室に戻っていた。が、たまさか勉強など大人しくしている私ではなかった。
一応、ノートや教科書を広げ、とっさの母の襲来に備えてはいたが、こっそりと、友人から借りて来たマンガや、時には明星などといった雑誌を読みふけっていた。
各教科から出ている宿題は、厳しい先生のものから順に済ませ、そうでない科目はどんどんおいてけぼりになってしまっていた。
どんなに親からせっつかれても、一向にお尻に火がつかない、懲りない受験生なのであった。
そして、逃れられない教科の宿題だけは済ませ、一旦階下に降り、コーヒーなどをいれて部屋に戻るといい加減で深夜になっている。
勉強机の黄色っぽいライトの下、熱いコーヒーを一人すすっていると、つけっぱなしだったラジオから、DJの威勢の良いタイトルコールの後に流れる始めるオープニング曲。
「bitter,sweet samba」だ。
低いベースと、ブラスの響きが重なりあった軽快なリズムのあの曲。
家族みんなが寝静まり、自分だけがこの夜の闇の中で息をしているような気持ちになるシンとした時間の中、突如として始まるDJの素頓狂な声に大笑いさせられていた。(真夜中だけにあまり派手に笑えないのがツライ)
また、お色気コーナーでは怪し気な気分になってしまったり、お悩み相談コーナーではさっきまで悪ふざけしていたDJが、急に冷静かつ温かな助言で見えない先にいる私達に語りかけてくれたりした。
下世話なジョークや、切実な言葉、初めて聞く音楽達の入り乱れる中で、長かったはずの夜が私だけの大切な時に変わって行った。
昼間は、アイドルを真似、自由気ままに浮かれているようでも、周囲からの締め付けや、出来損ないの自分へのプレッシャーの中で必死にもがいていた私の、一時のオアシスだったように思う。早く大人になりたいような、いつまでも子供のままでいたいような、宙ぶらりんな時代を、優しく包む夜が確かにあったのだ。
その証しとして、今でも「bitter,sweet samba」を聞くと、窮屈な服を脱ぎ捨てた時のような開放感と、そして、にがにがしい思い出の多かった時代の、いつまでも甘えん坊だった私がよみがえる。
夜が今よりももっと暗く長く、星がもっと輝き、コンビニと携帯電話が無かった頃の思い出である。

 

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