私は立っていた。一人ぼっちで。
彼との約束の時間はとうに過ぎて、冷たくなった足がジンジンと痛い。
周囲の待ち人たちには必ず誰かが歩み寄り、言葉を交わしてどこかへ消えて行く。
なんだか、私だけ置き去りみたいだ。
どうしよう。こんな時に限って携帯電話もバッグに入っていない。
電車の中に忘れたのかしら?それとも昨日着ていたコートの中?
思い出せない。頭も少し痛くなってきた。
最後に会った時、彼は「金曜日の6時、いつものところで」って、確かに言った。
噴水広場はもう何度も待ち合わせをした、私達の「いつものところ」だ。
約束が急にフイになることは今までなかったし、私が間違えているとも思えない。
「今度は、新しくできた居酒屋に行ってみようか。」あのときの彼の声が思い出される。
駅のほうから、また誰かがやってきた。片足を少しひきずったような歩き方だ。
逆光で顔が良く見えないが、私の彼ではないようだ。
その人は近くまで来て周囲を見回し、花壇のそばにいるサングラスをかけた女の人に近付いていった。
嬉しそうに言葉をかわしているのが聞こえる。そしてしばらくしてから、
女の人が男の人の腕に手をまわしてゆっくりと広場から歩き去っていった。
「いいなぁ。」とため息をついていると、駅前の大時計が7時の鐘を鳴らした。
振り返って見ると、アーケードの賑わいが目に入る。
街にはまぶしいくらい光りがあふれているというのに、私は淋しく待っているだけ。
もうひとつため息をついてふと横を見ると、さっきまでいた人とは入れ替わりに、
長い髪の女性が立っている。
私と同じように、時計の方を見て、ため息をついた。
「 この人も待ちぼうけね」 そう思うと可笑しくなって、思わず笑ってしまった。
するとその人が、こっちを見て、 「あなたも?」と言ったように聞こえた。
私は「え?」と聞き返した。
「ようやく答えてくれる人がいたわ」その人は静かに笑った。
「待っているんでしょ?誰かを…」言いながら、髪をかきあげてこちらを向いた。
見ると額に大きなキズ。赤く血が滲んでいるようだ。
「大丈夫…?」大声で言いかけて、私はおもわず口をつぐんだ。
すると、 「あなたこそ、平気なの?」 その人は下の方を指さした。
「足?」 なんのことかわからずに目線を下げる。と、おもわず息を飲んだ。
「足、どこかに置いてきちゃったの?」高い声が耳に響いた。
目眩とともに記憶が蘇る。
ああ、そうだった。 最後に会った夜、彼の車でドライブに行った。
彼はワインで少し酔っていた。そしてカーブで急ブレーキ。ライトのまぶしい光り。
…その後は覚えていない。 そういえば、サイレンの音とママの泣き声が聞こえたような。
そしてどこからか、お線香の匂い。
見えないはずの足の痛みがさっきより増してきた。
まわりの景色もうつろにゆがんでいく。 女の人がちいさくつぶやくのが聞こえる。
「ずっと待ってるのに、来ないのよね・・・私のあの人も」
…彼は約束、忘れちゃったかしら?
|