「ママ」 十河梨枝
絵を描くたびに娘は私のところへやってきて
「これ、あげる」
とにっこりしながら描いた絵を差し出す。
私はスクラップブックに貼ろうか、とかスキャニングして一枚のCDに残してやろうかと考えながら ありがたくいただく。
そんなことをしばらく続けたある日、 たまった膨大な数の絵を整理しようと思い立った。
座り込んでいくつかの箱を開け、あらためて娘の絵を見る。
ライオン、お姫様、家、木、どの絵にも見入ってしまいなかなか先へと進めない。どれくらい時間が経ったのか、顔を上げたとき私の顔は濡れていた。
涙が止まらないのだ。
どの絵にも、どの絵にも「まま」と書いてある。「まま」「まま」「まま」「まま」・・・・
娘が1才の時に仕事を興してから、
「ここが正念場、ここががんばりどころ。」
そう自分に言い聞かせながらやってきた。
もちろん娘にも寂しい思いをさせまいと努力をしてきたつもりだった。
けれど、娘はこんなにも私を呼び、求めていたのだ。
懺悔と、愛おしさを交互交互に心の中で織りながら、もう一度最初から目を通す。
ママをがんばろう、娘のママを。
今よりもっとがんばろう、娘のママは私だけなのだから。
愛おしい紙切れたちを箱へ戻し、押し入れへとしまって立ち上がる。
「まま、ちょっと来て。」
娘が私を呼んだ気がしたのだ。
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