『瞬間(とき)を忘れない』  さら

「わたし、冴子……。いろいろと今までありがとう」
冴子からの電話を受けたのは数ヶ月前のこと。
か弱い彼女の声は今でも耳から離れない。
あなたの心細さと気丈さが伝わり、私にはかける言葉さえ見つからず
「会いに行くから待ってて」
それが精一杯の私の返事だった。

病室に横たわる冴子は、一回りも二回りも小さくなり 点滴の管が痛々しい。
「来てくれたのね、ありがとう。あなたにだけは知らせたかったの。
あなたにだけは、私の生き様を最後までみてほしかったの」

いいのよ、何も言わなくても
… わかっているから…
手を握りながら心の中で叫んでいた。

冴子との出会い、それは中学の入学式。席が前と後ろで冴子から
「よろしくね」
と声をかけてもらった。内気な性格の私はずっとあなたの 後をついていたね。
ずっとあなたの真似をしていたね。
それでいっぱしの女性気取りのつもりだった。
いつも一歩も二歩も前を行くあ・な・た。

人生もそんなに先を歩いていってしまうなんて、思ってもみなかったのに。
幸せだった?幸せをいっぱい感じていたの?
もう強がらなくてもいいんだよ。ありのままの姿で最後まで……

ハラハラと葉が散るが如く、命の灯は静かに消えていった。
訃報を聞いたのは、桜の咲く頃。

一つの物語の終結……

 

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